能楽師・桑田貴志 深川能舞台WEBサイト

公演レポート

緑泉会 別会「養老水波ノ伝」


日時 22年1月11日
会場 国立能楽堂

緑泉会別会にて、「養老水波ノ伝」という秘曲を勤めました。「道成寺」以来、二度目の国立能楽堂の大舞台です。超満員のお客様を迎えての檜舞台となりました。

「水波ノ伝」という小書(特殊演出)は、大変重い習いで滅多に上演されません。私のような若手が演じることは稀な事です。今回は師匠に特別の許しを頂き、挑戦させて頂きました。 この小書の特徴は、「水波ノ舞」という能の中で最も早い舞を舞うことにあります。そして早いだけでなく、急にゆっくりになるなど激しい緩急で舞われます。 型も通常の舞よりも手数の多い替えの型となります。 能楽最速の舞を、普通より型を増やして舞うことからも、至難の舞と言われます。 「養老」は脇能という、神様を主人公とした能です。まず第一に神様らしく、清々しく力強く演じようと心がけました。

年末年始には殆ど仕事はありませんでしたので、連日自分を追い込んで稽古いたしました。「道成寺」の前のときのような密度で、この大曲に立ち向かいました。

前日まで稽古は順調にすすみ、準備万端でした。ところが前日に異変が起こりました。 次男から、ウィルス性の腸炎(おそらくノロ・ウィルス)をもらい、ひどい体調となりました。 当日は、薬を大量に飲み気力で乗り切りました。 不思議な事に、装束を着ける頃には体調の悪さは全く気になりませんでした。 舞台の最中は、余計な力が抜けかえって勢いよく動けました。後日DVDを見ましたが、鬼気迫る緊張感がみなぎっています。 結果論ですが、ギリギリまで自分を追い込む形となったおかげで、予期せぬパワーが湧いてきた感触でした。 気力が病を上回ることってあるのですね。

役者にとって、稽古が大事なのは言うまでもありませんが、それと同じくらい体調管理も重要であることを思い知りました。 今後は、こういうことのないように気を付けたいと思います。 後場は、「水波ノ伝」専用の装束を着ます。 半切(袴)は、「白地青海波」。頭には「芍薬」の立物。

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