能楽師・桑田貴志 深川能舞台WEBサイト

公演レポート

九皐会「鵺」


日時 22年2月14日
会場 矢来能楽堂

旧暦では正月の2月14日に、寅年を寿ぐ「鵺」を舞いました。「鵺」とは、トラツグミという鳥の別名です、手足はトラの形だそうです。 まあこじつけですが、旧暦とはいえ寅年の元日に干支にちなんだ演目を演じるのは、悪い気はしません。

「鵺」は、世阿弥作の異色の鬼能。陰湿な前場と、派手な後場とで構成されています。世阿弥は、単純な勧善懲悪の鬼能を嫌い、複層的に重なり合う鬼のドラマを描いています。 前場は、暗くうっそうと登場してきた鵺の亡霊が、自分が討たれた時の有様を居クセで語ります。その最後に激しく動きます。 とにかく、陰鬱な雰囲気を出そうと謡いの声を低く抑えることを心がけました。クセの後半は、なるべくリアルな表現で演じてみました。 後場は、能楽界の名物面「猿飛出」を使わせて頂きました。上記の眼光鋭い顔をご覧下さい。 この能面は、観世喜之家が、銕之丞家から分家する際に与えられた逸品です。鵺は頭が猿という設定ですので、猿顔をした「鵺」専用面です。 赤頭の下からはあまり良く見えないのが残念です。

後場は、派手に動き回るスペクタル満点の能です。流れ足という大変に特殊な足使いをします。 能の動きは全てすり足によって演じられますが、流れ足は、水面を流れていく様を現わした特殊な足使いで、つま先立ちのまま横歩きをします。 重たい装束を身にまとったまま、流れ足で右へ左へと舞台から橋掛かりまで動き回るのは大変しんどかったです。

この日は体も切れ、楽しく舞うことが出来ました。

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