能楽師・桑田貴志 深川能舞台WEBサイト

公演レポート

「道成寺」回顧録 2

気合いを入れて、いよいよ乱拍子。大鼓のK師の気合たっぷりの一調に送り出して頂き、小鼓のU師との一騎打ち。 申合と比べて、体がスムーズに動きます。何だかこれも、大きな何かに動かされている感覚でした。 途中からはさすがに辛かったです。乱拍子やりながら思いました。 「もう道成寺はいい。二度とやらない」

乱拍子が終わりに近づくにつれ、また気持が昂ってきます。「よしよし。キターーー」なんて訳のわからないことを心の中で叫んでいました。不思議な精神状態ですね。本番の乱拍子は、短く感じました。でも実際は、三十分位かかっていたそうです。終演後、小鼓のU師とそんなに時間かかったっけなあと、首をかしげ合いました。 乱拍子はしんどかったですが、稽古通り出来たという印象です。「乱拍子は、稽古するから皆上手く出来るんだよ。道成寺の難しさは他にある」と兄弟子に言われましたが、まあそんなものなのでしょうか。でも、このテンションで臨むことはもう二度とないんだろうな・・・

「静」の極限の乱拍子から、「動」の急之舞に移りました。ある評論家の方が、「急之舞は世界一速い舞」と言っていました。 世界一かどうかはともかく、間違いなく能の中では一番早い舞です。
能「道成寺」の中でも大きな見せ場なのですが、少し経った今、舞台を思い出しても、急之舞を舞った記憶が無い・・・無我夢中だったんですねえ。

同じことは鐘入りにも言えます。大変な危険と背中合わせの鐘入り、過去いろんな事故の話も聞いています。鐘後見は、名人の師匠ですから全く心配していなかったのですが、何故か前日になって急に恐怖が押し寄せてきました。当日の朝、家を出る時にふと、「この家に再び戻って来れるのかなあ」という考えが頭をよぎりました。実は結構ビビっていたのです。でも、本番の鐘入りは正に無我夢中。気がついたら鐘の中にいて、「あ、生きてる」と感じたのを良く覚えています。そうかと思うと、所々は鮮明に覚えています。高速で動いていたはずなのに、スローモーションのようにゆっくりと景色が浮かんできます。人間の感覚って不思議ですね。


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